嘔吐物処理の成否は、最初の5分で決まります。
やるべきことは3つ。
周囲の人を遠ざける、防護具を着けて静かに拭き取る、次亜塩素酸ナトリウムで消毒する。
この初動を誤ると、乾燥した嘔吐物からウイルスが舞い上がり、施設内に感染が広がる恐れがあります。
「待合室で患者さんが吐いてしまった、どうすれば」「アルコールで拭けばいいの?」「掃除機を使ったらダメって本当?」。
突然の場面では、慣れたスタッフでも判断に迷うものです。
特にノロウイルスはごく少量でも感染するとされ、医療施設では患者さんも職員も守る対応が求められます。
この記事では、初動5分の具体的な手順、消毒液の作り方、事前に備えるべき処理キットの中身、外部委託の考え方まで解説します。
読み終えれば、明日から使える応急対応の型が手に入ります。
嘔吐が発生したら、最初にやるのは拭き取りではありません。
周囲の患者さんを遠ざけ、可能なら3メートル程度の範囲に人が入らないようにします。
窓を開けて換気を始め、処理者は使い捨ての手袋・マスク・エプロンを着用します。
足元の汚染が心配な場合はシューカバーも追加します。
厚生労働省のノロウイルスに関するQ&Aでも、処理時の防護と換気の重要性が示されています。
よくあるのが、善意で駆け寄ったスタッフが素手やハンカチで拭いてしまうケース。
気持ちは分かりますが、処理者自身が感染すれば院内の戦力を失います。
「まず囲う、それから装備」と覚えてください。
嘔吐した患者さん本人へのケアは医療職に引き継ぎ、処理担当は環境対応に専念する、という役割分担も事前に決めておくとスムーズです。
拭き取りは、ペーパータオルや使い捨ての布で嘔吐物を覆い、外側から内側へ集めるように静かに取り除きます。
擦り広げたり、勢いよく拭いたりすると飛沫が舞います。
掃除機は排気でウイルスを拡散させる恐れがあるため使用しません。
モップも汚染を広げやすく、応急対応には不向きです。
拭き取った嘔吐物とペーパーは、すぐにビニール袋へ入れて口を縛ります。
このとき袋の中に消毒液を少量入れておくと、より安全に廃棄できるとされています。
見た目がきれいになっても、その場所には目に見えない汚染が残っていると考えて次の消毒工程へ進みます。
「拭き取れたから終わり」ではなく「ここからが本番」という感覚が大切です。
嘔吐物を取り除いた後の床は、次亜塩素酸ナトリウムの希釈液で消毒します。
ノロウイルスにはアルコールが効きにくいとされており、嘔吐物処理では0.1%(1000ppm)程度の次亜塩素酸ナトリウムを使うのが目安とされています。
家庭用塩素系漂白剤(濃度約5%)なら、水500mLにキャップ約2杯(10mL)で概ね0.1%になります。
汚染箇所より一回り広い範囲を、浸すように清拭して数分置き、その後水拭きします。
金属は腐食しやすいため、消毒後の水拭きを忘れずに。
ケースによりますが、カーペットなど色落ちする素材は加熱処理(スチームアイロン等)が案内されることもあります。
処理後は手袋を外し、石けんと流水で丁寧に手を洗って完了です。
応急対応の質は、備えで決まります。
処理キットの中身は、使い捨て手袋(2双)・マスク・エプロン・シューカバー・ペーパータオル・ビニール袋(2枚以上)・次亜塩素酸ナトリウムまたは希釈用ボトル・手順書の一式が基本です。
ある透析クリニックでは、市販の凝固剤入りキットを待合室・トイレ・処置室の3か所に分散配置しました。
実は、それまでキットは倉庫に1つあるだけで、いざという時に「キットを取りに行く2分」がロスになっていたそうです。
配置を変えてから、実際の発生時に受付スタッフが1人で初動を完了できたといいます。
キットは中身の使用期限も含めて、月1回の点検日を決めて補充する運用にしておくと、いざという時の「入っていなかった」を防げます。
手順書があっても、読んだだけでは体は動きません。
年1〜2回、模擬嘔吐物(ゼリーや疑似液)を使った処理訓練を行う施設が増えています。
ある内科クリニックでは、流行期前の10月に15分だけの訓練を実施しました。
最初は「そこまでやる必要ある?」という空気だったそうですが、実際にやってみると手袋を外す順番で全員が戸惑い、危うく素手で汚染面に触れるところだったとか。
現場スタッフ曰く「訓練で失敗しておいて本当によかった。本番だったらと思うとゾッとします」。
訓練は完璧にやることではなく、つまずく場所を先に見つけることに価値があります。
新人が入った月と流行期前の年2回を定例にすると、無理なく続けられます。
訓練後に手順書を1か所でも直せたら、それだけで実施した意味があります。
清掃を外部委託している場合、嘔吐物対応が契約範囲に入っているかを確認してください。
よくあるトラブルが「業者は日常清掃のみの契約で、嘔吐物は対象外だった」というケースです。
発生時の初動は院内スタッフ、その後の広範囲な消毒や定期的な予防清掃は業者、という分担を事前に決めておくと混乱しません。
流行期だけ清掃頻度を上げる契約にしている施設もあります。
医療施設の清掃実績がある業者なら、感染対策を踏まえた清掃手順や消毒剤の使い分けについて教育を受けたスタッフが対応します。
正直なところ、この教育の有無は流行期に差が出ます。
費用は作業範囲によるため、一般的には仕様を明確にした上で複数社に見積もりを取り、対応範囲と教育体制を比較するのが確実です。
A1: ノロウイルスにはアルコールが効きにくいとされています。
嘔吐物処理では0.1%程度の次亜塩素酸ナトリウム希釈液を使うのが目安です。
A2: 濃度約5%の家庭用塩素系漂白剤なら、水500mLに約10mL(キャップ約2杯)で概ね0.1%です。
作り置きは効果が落ちるため、使用時に調製してください。
A3: 汚染場所から3メートル程度を目安に遠ざけ、換気を行います。
処理者以外は近づけず、処理後も数分は範囲内への立ち入りを控えるのが安全です。
A4: 掃除機は排気でウイルスを舞い上げ、モップは汚染を広範囲に塗り広げる恐れがあるためです。
使い捨てのペーパーで静かに拭き取るのが基本です。
A5: ビニール袋に入れて口を固く縛り、二重にして廃棄します。
袋内に消毒液を加えるとより安全とされています。
施設の廃棄物ルールにも従ってください。
A6: 手袋2双・マスク・エプロン・シューカバー・ペーパータオル・ビニール袋2枚以上・消毒剤・手順書が基本セットです。
発生しやすい場所の近くに複数配置すると初動が速くなります。
A7: 契約範囲によります。
初動は院内、事後の広範囲消毒は業者という分担が現実的です。
委託時は嘔吐物対応の可否と追加費用の有無を契約前に確認してください。
嘔吐物対応は、起きてから調べたのでは間に合いません。
まずは処理キットの中身と置き場所を今日確認してみてください。
日常清掃や流行期の予防清掃まで含めて整えたい場合は、複数社を比較し、医療施設の感染対策を理解した清掃業者に相談しておくと安心です。
温浴施設・医療施設・飲食店など、すべての施設に共通する「清潔を維持する考え方」についてはこちらをご覧ください。
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